東京地方裁判所 昭和41年(ワ)6844号 決定 1969年4月23日
申立人 北村三枝
<ほか一名>
右訴訟代理人弁護士 星野行男
主文
本件に関する期日指定の申立は却下する
理由
申立人訴訟代理人は本件について期日指定あらんことを求めた。その理由は、「本件については先に昭和四二年九月二〇日、被告は原告らに対し昭和四二年一一月末日限り金五〇万円を支払う旨の和解が成立したものであるところ、被告は原告に一銭も支払わず、後日話し合ったところ、右和解をする際全然右金員を支払う意思がないまま被告訴訟代理人清水正三弁護士にすすめられて、形だけの和解に応じたものであることが判明した。もし、当時この被告の真意が原告らに判っていたとすれば、原告らは、和解に応じなかったのであって、右和解は、要素の錯誤に基づくものであるから、無効であって訴訟終了の効果を生じない。よって、改めて口頭弁論をなすべく期日指定を求める。」というにある。
しかしながら、本件和解の成立した昭和四二年九月二〇日午後一時の口頭弁論期日には、被告本人が出頭し、約二ヶ月後である同年一一月末日を期限とする金五〇万円の支払いを約したものの、果して約定どおり履行されるか否か疑わしいものがあったので、原告訴訟代理人の要求により、「右金員の支払を怠ったときは、違約金として金一〇万円を付加して支払う」旨の条項を加えることとして、被告の支払を間接に強制することとした経過は、当時その和解を勧試したと同じ裁判官によって構成されている当裁判所にとっては、職務上顕著な事実であって、然る以上被告に支払いの意思がなければ和解に応じなかったとの本申立の理由はこれを肯認する余地なきこと明らかである。けだし、被告が支払をなさない場合に備えて強制執行のための債務名義を作成するのがそもそも和解調書作成の目的なのであるし、右の経過が示すように、原告はむしろ被告の支払の意思の有無につき十分の疑問を懐き、特に違約金条項を加えた上で、初めて本和解を成立せしめたのであったのであるからである。すでに、和解無効の主張の理由なきことが裁判所に顕著である以上、その有効無効につき口頭弁論をなさしめるため改めて期日指定をなすまでもないから、本申立を直ちに却下することとして、主文のとおり決定する。
(裁判官 倉田卓次)